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 ただ、それだけだ。  そう、たったそれだけのことだ。  しかし、私は、あの光景を、忘れることができない。  人にとっては、些末なことだ。  ただの日常の一片だ。  そして、恐らく、私の思い人にとっても、ただの動作の一部だったに違いない。  しかし、私にとっては違ったのだ。  その、些細な、小さな出来事が、私の肋骨の内側で、今でも響いている。  あの人に飲まれた青色と、青色を飲み込むあの人の、どんなに綺麗で、儚く、目映く、幻想的だったことか!    そこは、眩しい空の下ではなかった。  そこは、輝く海の前でもなかった。  しかし、けれど、確かに  私の夏の始まりはここだった。
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