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 青色が好きだ。  きっかけなんて、覚えていないけれど。  物心がついた頃から、ずっと目で追っていた。  青い物が好きだ。  空が好きだ。  海が好きだ。  夏祭りのかき氷も。  彼のTシャツも。  彼女のネイルも。  あの少年のゲーム機も。  あの老婆の日傘も。  青い色が、私の目を引き付ける。  青い色が、私を捕らえて離さない。  そんな青色と巡り会うことの多い夏という季節も、私は好きだ。  青い空に口付けて家を発ち、青い海を両腕で抱き締めながら帰路につく。住宅街で青い服の高校生たちとすれ違い、夜の遊園地で青い電光に包まれた。  突き刺すような陽射しも、息が詰まるような暑さも、私にとってはその色をより鮮明に映すスパイスのようなものだ。勿論、それらが疎ましいと思うこともあるが、あの青い世界の前では、その疎ましささえも共に愛せてしまう。  肺一杯に、胃袋満杯に、青色が詰め込まれる季節。  私は、夏が好きだ。  けれど、私が、この夏の始まりを、最も強く感じたのは、愛すべき空の下でも、愛おしい海の前でもなかった。その始まりを告げたのは、青に包まれた学生でも、青で包み込んでくれる電灯でもなかった。
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