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大家の記憶
「このアパートはつい最近火事で焼けちまったんだよ。そのとに父親は部屋にはいなかったんだが、戻ったときには幼い娘が焼死体で発見されたんだ」
「そうだったんですか……」
焼け落ちて半年ほどで、アパートは新築された。借り手に新築であることを伝えなかったのは、いま思えば貸し手側の配慮だったのかもしれない。
「父親はその後ほどなくして自殺したと聞いているよ。アパートはまっさらに建て直されたんだがね、ちょうど親子の部屋はあんたのとこに位置する場所だったんだ」
私は言葉もなくただ大家の話を聞いていた。あの青白い顔は、悲しそうな表情だったような気もする。
「無念だったんだろうなあ…」
大家は私の顔をまじまじと眺めながら、最後に言った。
「そういえば、あんたは亡くなった京子っていう女の子に目元がそっくりだ」
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