1 花の名前を

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俺と美奈は予定通り、最寄りの駅に向かった。しかし、駅についてみると、駅員が拡声器でアナウンスをしていた。大きなホワイトボードにとがった手書きの文字。 「近くの踏切で人身事故だって」 美奈の顔が曇る。 電車は当分動かないようだ。俺達は「世界の猫にゃん写真展」に行く予定を変更した。相談して少し離れた百貨店に歩いていくことにしたのだ。 美奈と二人でセミの鳴く町を線路沿いに歩く。 「写真展いけなくなって、残念だったね」 「なんだか、ごめんね。この暑さなのに、歩くことになっちゃって」 気にしないでよ、そういいかけた時にツンとした香りが鼻を刺した。 「……! 」 角を曲がってきたらしい女子高生の二人連れが風上にいた。片方が棒付きのミントチョコをなめながら歩いている。暑さで滴る緑の滴がアスファルトを汚している。 なぜ俺は元カノに「日本ではハッカ。西洋ではペパーミント。成分はメントール」なんて話を教わってしまったのだろう。この香りはあまりにも、街角でぶつかる確率が高い。今の俺には魚の血よりもハッカの香りの方が、生臭いんだ。 「あ、もしかしてあそこが……」 美奈がかなり先の踏切を指さした。遠くからでもパトカーなどの緊急車両が、何台もとまっているのがわかった。 もう少し歩くとその踏切で、電車も止まっているのが見えた。間違いない、あそこが事故現場だろう。 怖いもの見たさで、スマホをかざす野次馬の仲間入りをしたい気持ちが、なかったわけではない。しかし、美奈が「やっぱりだれか亡くなったのかな。かわいそうだから、別の道にしようよ」といった。
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