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姉には高校の卒業アルバムがない。
自分で燃やしたから。
卒業アルバムが配られた日、みんなでワイワイ騒ぎながら見ていたらしい。
一番盛り上がったのは、生徒から集めた教室内の日常生活を写した写真。
みんながスマホを持っているから、写真は幾らでも集まったらしい。
その中でも選りすぐりの写真が載っているのだから、盛り上がらないはずはない。
その写真は、授業と授業の間の休憩時間に撮られたものだった。
カメラ(スマホ)の前で、姉とは別のグループの生徒たち数名が、ピースをしたり、変顔をしたりして写っていた。
彼女たちのすぐ後ろが姉の席で、その女の子は、その席で、熱心にノートに何かを書いていた。
「誰これ?」
初めて卒業アルバムを見せられた時、私は姉にそう問うた。
姉は少しぽっちゃり系の体形に、肩まであるストレートヘア、丸顔の童顔なのだが、写真の子は、ショートヘアで小麦色の肌。両の目がクリッと大きくて、いわゆる美少女だ。
ちなみに他の人の卒業アルバムにも、彼女はバッチリ写っていた。
「友達が座っていただけじゃないの?」と私。
「こんな子は友達にはいないし、同じクラスでもない。同じ学年にもいないし、他の学年にもいなかったの」
「これを撮った人はなんて言ってたの?」
「聞いたけど、誰もいなかったはずだって」
「マジで? どうすんの?」
「K叔母さんに聞いてみようと思ってさ」
K叔母さんは、母方の叔母でいわゆる『視える人』。
で、K叔母さんに電話したら、卒業アルバムを見せるまでもなく、
「すぐに燃やしなさい」
姉はその日のうちに、狭い庭で卒業アルバムを燃やした。
それから40年―
病床のK叔母を姉と見舞った。
姉はK叔母から頼まれて、友人から例の卒業アルバムを借りて来ていた。
あの写真のページを開くと、そこにはあの見知らぬ少女の姿はなかった。
「ああよかった。ずっと気になっていたのよ」とK叔母。
その夜、叔母は旅立って行った。
この話は、K叔母が旅立つ数時間前に、姉と共に聞いたのだ。
どうやら、姉がアルバムを燃やした時に、あの見知らぬ少女の記憶と姿は、関係者全員の前から消えてしまったらしい・・・。
(了)
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