2.ジンミンゼミからシンミンゼミへ

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 完成の報告を受けた宰相は上機嫌だった。 「それでは、さっそくその蝉を増やし、野外に放ってくれ」  シンミンゼミは雄ばかり百匹ほどが作られ、野外に放たれた。 なお、雌が作られなかったのは、蝉は雄だけが鳴くため、雌を作っても意味が無いと判断されたためである。  翌年も翌々年もシンミンゼミは野に放たれたが、コウテイスッゴーイの声はほとんど聞こえず、相変わらず聞こえてくるのは野生型のジンミンゼミの声ばかりであった。 「どうしてこんなにも毎年放っているのに、いっこうに余を讃える声が増えないのだ」  アルパカの背の上から叱責する皇帝に、宰相は内心の苛立ちが表に出ないよう気をつけながらこう答えた。 「仕方ありません。百匹程度では元々いた野生のジンミンゼミと比べて圧倒的に少ないわけですから」 「百匹というのは今年放った数であろう。昨年や一昨年に放ったものの子供を含めればもっといるはずではないか」  皇帝はアルパカの背から鹿の背へと移りながら更に追及する。  なお、現在皇帝が嵌まっている健康法はアルパカと鹿(ディア)に交互に乗ることに若返りの効果があると謳う『アルパカとディアの力で人体に眠るアルカディアの波動を引き出すアルパカディア・メソッド』である。言うまでもないことだが、科学的根拠は無い。 「陛下、一昨年放ったシンミンゼミの子でも地上に出てくるのは五年後です。どうかそれまではお待ちください」  ところが、最初にシンミンゼミを放ってから七年が過ぎても、皇帝を讃える声が増える様子はいっこうに無かった。
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