2.ジンミンゼミからシンミンゼミへ

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 当然のことながら、宰相は猫耳をつけた皇帝に散々罵倒されることとなった。  なお、読者諸氏が誤解しないよう付け加えておくと、皇帝が猫耳をつけていたのはそういった健康法に嵌まっているためではない。  さすがに皇帝もそこまで愚かではないのだ。猫耳をつけていたのは、単に最近後宮に迎え入れた猫耳アイドルに嵌まっていたからである。  これはあまり知られていないことではあるが、宰相は老いた男の猫耳姿が世界で二番目に嫌いであった。すっかり機嫌を悪くした彼は、腹いせも兼ねてさっそく帝華大学の学長を呼びつけた。 「あれから七年経ったぞ! それなのになぜ皇帝を讃える蝉が増えないんだ!?」 「恐れながら、シンミンゼミは雄しか作っていませんので、野生の雌との間に生まれた子は父親由来の皇帝陛下を讃える声で鳴く改変型の遺伝子と、母親由来の野生型遺伝子を一つずつ持つことになります。そのため、両者の中間の声で鳴くのです」 「中間? それはどんな鳴き方なのだ?」 「試しに実験室で作ったものは、こんな声で鳴きました。『コウテイジミー、スッゴーイジミー、ナンダカジミー、トニカクジミー』」 「なっ、なんだそのまるで陛下が地味であるかのような鳴き方は!? 夏が来る度にそんな声で鳴かれたら、むしろサブリミナル効果で陛下に対するに敬意を薄れさせてしまうではないか! なんとかならんのか!?」 「孫世代の蝉には父親由来と母親由来両方の遺伝子が改変型のものも生まれてきますが」  宰相は溜め息をついた。 「また七年待つわけか」 「もっとも、孫世代でも両方の遺伝子が改変型の蝉は四分の一の確率でしか生まれてこず、二分の一は片方が野生型のもの、残りの四分の一は両方とも野生型の蝉ということになりますが」
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