第三領域

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 目が覚めた。  小鳥がさえずり、まさに朝といった様子がうかがえる。そして俺はというとかなりすっきりとした起床と、数日振りかに感じるこの自由に動く体。  当たり前のように思えて、実は一番幸せだと思えるこの感覚に、思わず布団から飛び起きて、部屋のカーテンを全部開いた後、差し込む光をその身に浴びた。  これはあれだ、さんざんな目にあったからこその気持ち良さだ。だからと言ってひどい目にあいたくはないのだが、この素晴らしき起床で今までのものを多少はチャラにできるってものだ。  そんな、気持ちの良い起床を迎えた俺だったが、すでに時計の針が12時を回っていることに気付いた。  さらには、腹が空腹を知らせるためにグルグルうなっており、とりあえずリビングに降りることにした。  さんざんな目にあったが、こうしてのんびり目覚めてのんびり食事でもとろうと思えるこの現実はとても素晴らしい。  そう思いながらリビングに到着すると、見覚えがあるが、不自然な存在が俺の目に映っていた。 「そ、そうだった・・・・・・」  リビングの椅子に座るのは、間宮法子その人であった。彼女はさらに乗ったパンケーキと思われるものを前に、食べることもせずただじーっと眺めていた。  そして、視線を合わすこともなく、俺の存在に気付いたのか、声を上げた。 「その反応はどういう事かしら」 「いや、別に何でもないんだけどさ、そういえばそうだったなと思って」 「そう、まぁいいけど、あなたのママさんとシスターズは買い物に出かけたわ、夕方まで帰ってこないそうよ」 「そ、そうか・・・・・・」  気まずい、簡単に間宮法子を止めさせた俺も俺だが、ここまで気まずいものだと思わなかった。  いや、普通に考えればこうなることは安易に想像できたはずだろうに、おれは何を血迷って間宮法子をこの家に連れ込んだのだろう。  まぁ、昨日は病み上がりってのもあって色々面倒になったから後先考えずに家に上げたんだろうけど、まさかあの母親がこの状況を受け入れてくれるとは思わなかった。  そんな、気持ちの良い目覚めであるが、奇妙な目覚めでもある俺は、とにかく腹に何かいれようと思い適当にパンでもかじることにした。  冷蔵庫にあるオレンジジュースと、パンを持って食卓に座ると、すぐ近くには間宮法子がいる。  だめだ、あまりにも居心地が悪い、自宅だというのにどうしてここまで居心地が悪いのだろう。  まるで、ほんの数時間でこの家が間宮法子に毒されてしまったかのような、そんな違和感すら感じてしまう。  まさか、俺の家の机から椅子から突然しゃべりだしたりしないだろうな?  なんてことを考えていると、まるで俺の施行を読み取ったかのように、間宮法子が俺をじっと見つめてきていた。 「な、なんだよ」 「べつに」  間宮法子は、そう言って再び視線をパンケーキに戻した。そういえば、こいつは何をさっきからパンケーキとにらめっこしているんだ。 「お、おい間宮」 「何?」 「なんでパンケーキとにらめっこしてんだよ」 「・・・・・・」  なんだか、神妙な面持ちの間宮法子は、しばらく沈黙に徹していたかと思うと、突然思い立ったかのように口を開いた。 「ねぇ」 「ん、どうした?」 「これ、食べてもいいのかしら」 「は?」 「あなたのママさんが、私のために焼いてくれたみたいなのだけれど」  なんなんだこいつは、てめぇのために焼いてくれたっていうのならありがたく食っとけばいいものを。 「食べたらいいと思うぞ、それとも人の家の飯は嫌か?」 「いいえ、そんなことはないわ」 「じゃあ食べればいいだろ。しかし、懐かしいなパンケーキ、俺も小さい頃はよく作ってもらったよ」 「そう」  俺の言葉がきっかけにでもなったのか、間宮法子はようやくフォークとナイフを持ちパンケーキに手を付けた。そして少しぎこちない様子でパンケーキを切り分け、そして一口食べた。  相変わらず、見た目だけはいいものだから、パンケーキを食している姿を見ているだけで、どこか心が満たされている気分になった。  そして、そんな彼女の様子を見ていると、俺はどうしても彼女のことを深く知りたいという思いに支配された。  いい機会かもしれない、間宮法子という人間、いや魔女がどのような存在なのか、それを知ることのできるチャンスかもしれない。そう思うと俺の口は勝手に動き出していた。 「なぁ間宮、お前はどうして普通の高校生をやってるんだ?」 「何を言い出すかと思えば、訳の分からないことを聞くのね」 「いや、お前の真意は知らんけど、断片的な事なら知ってる。お前は魔法ってやつで世界を平和にしたくて魔法の勉強に励んでいるんだろ」 「そうよ」 「だったら、どうしてこんな普通の高校で、普通の高校生たちと一緒に過ごしてるんだ、お前にとっちゃ、あの高校にいて何のメリットもないだろう」 「・・・・・・・」  間宮法子は食べる手を止めた。そして黙る彼女に、俺はつづけた。 「別にお前の勝手だから、俺にこんなことを言われるのは気持ち悪いかもしれない、けど、世の中にはお前に同調してくれる、理解の奴だっているはずだ、だったら、そういう奴らと一緒に高みを目指すべきなんじゃないのか?」  こんな事、最初にあったころには思わなかったが、ここ最近の事件のせいで、間宮法子という生き物の重要性をまざまざと見せつけられたものだから、柄にもなくこんな事を言い始めてしまった。 「あなたの言う通りね」 「じゃあ、どうしてお前は」  と言いかけた時、間宮法子は持っていたナイフを俺に向かって突き出してきた。それはまるで「黙れ」とでも言いたげな様子で、俺は思わず生唾を飲んだ。 「あなたは、その答えを知りたいのかしら?」 「疑問だし、実際問題、魔法ってやつをまざまざと見せつけられられたもんだから・・・・・・つい、そう思ってさ」  なんか、こうして家で間宮法子と話し合っているってのは不思議な感じだ。おまけに間宮法子はあきれた様子で再びパンケーキに手を付け始めた。  この様子だとちゃんと答えてもらえるかわからないな、普通に「あなたには理解できないわ」とか「あなたに話す義理なんてないわ」なんてことを言われるかもしれない。  そう思っていると、間宮法子はパンケーキをモグモグしながらしゃべり始めた。 「小さな世界に興味はある?」 「は?」 「小さな世界に興味があるのか聞いているのよ」 「いや、小さな世界って、よくわからんけど、それがなんだよ」 「人間って、ついつい大きなものにとらわれがちよ、だってわかりやすいものね」 「いきなり何の話だ」 「この世のすべてはとってもとっても小さなものからできているとしたら?」  間宮法子ワールド全開の話が始まったようだ。そういえば、こいつはそういう奴だったし、その世界観をそのまま現実世界に持ち込んでこれるヤバい奴だ。 「お、俺は理数系は弱いんだ」 「どうでもいいわ、それよりもあなたにとって小さなものといえば何?」 「小さいもの・・・・・・あぁ、ありんこかな」 「ありんこ?」 「蟻だよアリ、英語でいうならアント」 「あなたにとって小さきものとは蟻なのね」 「そうだけど」 「まぁ、悪くないわ」  なんだか、家にいるというのに、授業で儲けているような気分になってきたが、こいつの言わんとしていることは一体何だろうかと思うと、不思議と退屈しなかった。 「で、その小さいどうこうってのが、さっきの話とどう関係があるんだよ」 「別に、ただ聞いてみただけよ、あなたがどれほど小さいところに目を向けているかね」 「じゃああれか、間宮、お前は小さい世界に何かヒントでもあるっていうのか?」 「えぇ、小さなちいさな、とても繊細で柔軟な存在、それに私はとても興味があるの、そして、尊敬しているわ」 「なんだそれ、まったくわからんぞ」 「じゃあ・・・・・・知りたい?」  まるで俺の疑問をすべて解決してくれるような誘惑、そして目の前の間宮法子は口元にクリームをつけていた。  クールでビューティフルなフェイスにキュートなクリーム、まるで暗号のような感想を頭の中で考えていると、間宮法子は舌で口元のクリームを舐めとった。    うん、新鮮な光景だ。思えば俺は間宮法子の食事しているところを始めてみたのかもしれない。   「ちょっとイカ、あなたぼーっとしてないで質問の返答でもしたらどうなの?」 「あ、あぁ、いや、そうだな悪かった、うん、知りたいしりたい」 「そう、じゃあ私のおつかいをこなせたら教えてあげるわ」  間宮法子はそういうと笑顔を見せた。何やら厄介事を頼まれそうな感じだったが、彼女の秘密を少しでも知るべく、俺は思いのほか元気な体を動かす決意を心に決めた。
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