0人が本棚に入れています
本棚に追加
もう始業の時間である。ぐだぐだしてる余裕はない。
仕事が始まる前は、始まるのが嫌で胸が苦しんでいたが、始まったら少しは吹っ切れ――はしなかった。余計に苦しかった。
「きみさ、ここ違うんだけど」
上司に呼ばれ、怒られる。
すいませんすいません、とあやまる。
「分からないなら何で聞かないかな。自分の勝手で仕事しないでくれる?」
と、上司に言われる。
「す、すいません」
上司さん。
それ、あなたに言われた通りにしたんですよ。昨日のことなのに、忘れてしまったんですか?
と言いたいのをこらえて、僕はペコペコあやまる。
席にもどり、仕事に復帰。
「あれこれ、この書類もきみのでしょ」
と、上司にあきらかに僕のじゃない書類を渡される。それは後輩がやったもので、後輩に顔を向けるとニヤッと笑って顔をそむけた。
どうやら、これも僕がやらなきゃいけないらしい。
ため息をついて、他人の分の仕事もやるとお昼休みに。
さっきの後輩が上司に昼食へさそわれていた。
「いやぁ、きみは仕事ができて助かるよ」
きみは?
あぁ、僕は違うのかな。
と、勘ぐってしまう僕は何て心が歪んでるのだろう。
僕はパソコンの画面に釘つけになる。
菓子パンを食いながら、昼食なのにパソコンを凝視していた。
◆
家に帰ると、朝顔にあいさつ。
「ただいまぁ、さびしかったかい。僕の心のオアシス」
「勝手に現実逃避の入り口にすんな、きもちわるい」
野太いおっさんの声のようなのが、はっきりと聞こえた。
辺りを探ってみるが、誰もいない。両隣も今は部屋にいないのか、物音がしない。なのに、声がした。
朝顔を見る。
「救われない」
また、野太いおっさんの声。
朝顔は、僕の顔から背けるように向きを変えた。
僕は鉢を叩き割り、嗚咽する。
了
最初のコメントを投稿しよう!