第1章

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 もう始業の時間である。ぐだぐだしてる余裕はない。  仕事が始まる前は、始まるのが嫌で胸が苦しんでいたが、始まったら少しは吹っ切れ――はしなかった。余計に苦しかった。 「きみさ、ここ違うんだけど」  上司に呼ばれ、怒られる。  すいませんすいません、とあやまる。 「分からないなら何で聞かないかな。自分の勝手で仕事しないでくれる?」  と、上司に言われる。 「す、すいません」  上司さん。  それ、あなたに言われた通りにしたんですよ。昨日のことなのに、忘れてしまったんですか?  と言いたいのをこらえて、僕はペコペコあやまる。  席にもどり、仕事に復帰。 「あれこれ、この書類もきみのでしょ」  と、上司にあきらかに僕のじゃない書類を渡される。それは後輩がやったもので、後輩に顔を向けるとニヤッと笑って顔をそむけた。  どうやら、これも僕がやらなきゃいけないらしい。  ため息をついて、他人の分の仕事もやるとお昼休みに。  さっきの後輩が上司に昼食へさそわれていた。 「いやぁ、きみは仕事ができて助かるよ」  きみは?  あぁ、僕は違うのかな。  と、勘ぐってしまう僕は何て心が歪んでるのだろう。  僕はパソコンの画面に釘つけになる。  菓子パンを食いながら、昼食なのにパソコンを凝視していた。  ◆  家に帰ると、朝顔にあいさつ。 「ただいまぁ、さびしかったかい。僕の心のオアシス」 「勝手に現実逃避の入り口にすんな、きもちわるい」  野太いおっさんの声のようなのが、はっきりと聞こえた。  辺りを探ってみるが、誰もいない。両隣も今は部屋にいないのか、物音がしない。なのに、声がした。  朝顔を見る。 「救われない」  また、野太いおっさんの声。  朝顔は、僕の顔から背けるように向きを変えた。  僕は鉢を叩き割り、嗚咽する。  了
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