狂った家族

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 木村雄一(キムラ ユウイチ)沙織(サオリ)の夫婦には、二人の子供がいた。長女の冴子(サエコ)と、弟で長男の栄治だ。  四人は、端から見ればごく普通の家族だった。都内の一軒家に家族で住んでおり、近所からの評判も悪くはない。  だが、木村家は普通ではなかった。沙織は、とある金持ちの社長の愛人であったのだから。  夫の雄一は、もともと海外に赴任していた優秀な商社マンだったのだが、ある日テロリストに誘拐される。言うまでもなく、身代金目的だ。  マスコミには知らされないまま、身代金と引き換えに解放された雄一。以来、彼は身も心も病んでしまった。想像を絶する恐怖を味わわされ、毎日受け続けてきた肉体への暴力。平和な日本で平穏に育った雄一に、耐えられるはずがなかったのだ。  雄一は毎日、虚ろな目で椅子に座りテレビを観ているだけ……家族を養おうという意欲は失われており、性的にも不能になっていた。当然ながら、仕事など出来るはずもない。  こうなった以上、木村家は暮らしかたを変えなくてはならなかった。生活のレベルを下げ、雄一の病気による年金の支給を申したてる。場合によっては、生活保護も申請する……それが、普通だろう。  だが、沙織は違っていた。見栄っ張りである彼女は、生活レベルを下げることに耐えられなかった。さらに、夫が壊れてしまっていることも世間に公表したくなかった。  そんな沙織に手を差しのべたのが、金融会社社長の肥田である。彼は、木村家を援助してくれた。引き換えに、家族は肥田の奴隷となる……。  肥田は、沙織の肉体を欲望のおもむくままに扱った。しかも、肥田の性欲は尋常ではない。夫や子供の見ている前であろうと、平気で沙織を犯した。  そんな家庭で、栄治は姉の冴子と共に育っていった――  栄治は、自分の家族が嫌で嫌で仕方なかった、虚ろな目で、腑抜けのような表情で日々を過ごしている父。自分の目の前で、狂ったような痴態を見せる母。下卑た笑みを浮かべ、母に手を伸ばす社長。  そんな異常な光景を、黙って見ていなくてはならない自分たち……。 「いつか、姉さんと一緒に家を出よう」  冴子は、そう言っていた。姉は、とても美しく清らかな存在である。幼くして、この世の狂った部分を見せられてきた栄治にとって、姉だけが唯一まともな存在であった。
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