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父や母や肥田のような人間にだけは、絶対にならない。全てを忘れ、まともに生きる……栄治は、そう誓っていたはずだった。
それなのに……。
気がつくと、あのクズども以下の外道へと成り下がってしまった。吸い寄せられるように裏の世界へと足を踏み入れ、そこにどっぷりと浸かっている。
これまで、何人の人間を地獄に叩き落としてきたのだろうか。
自分がこんな人間になったのは、誰のせいだろう。
あの事件以来、夏が来ると彼らは現れる。
無言のまま栄治の周囲で好き勝手に過ごし、夏の終わりとともに消えていく。栄治に恨みの言葉を吐くわけでもなく、危害を加えるわけでもない。時おり、哀れむような視線を向けるだけだ。
彼らは何なのだろう。幽霊なのか、それとも幻覚か……栄治には分からない。彼らが何の目的で来ているのか、それも分からない。
ひとつ確かなのは、彼らは今も栄治を見つめている。
家族の中で、唯一生き残ってしまった栄治を。
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