後部座席

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「どうします?引き返しましょうか?」松原はいつもの天使の顔でそう聞いた。「いや、丁度この先の石岡で下ろしてくれないか?釣りに行くための別宅があってね。何、降りてすぐのコンビニで下ろしてもらえれば帰れるからさ」  松原は石岡のインターで常磐道から降り、言われたコンビニに車を止めて源さんを下ろしてやった。 「ありがとう。アンタとドライブ出来て良かったよ。じゃあな」源さんは大きく手を振って、コンビニには入らずに近くの側道に消えていった。(冗談じゃないよ!どんだけ怖かったか!)松原は幽霊よりもこういう事象を怖がる質なのである。加えて潔癖症なところもあるため、予告なく車内に入られる行為にも腹が立つのだ。 (まぁ、仕方ない。予定より少し早いけど、ここで仮眠取るかな)本来はもう少し行った守谷で取るはずだった仮眠をこのコンビニの駐車場で取ることに決めた松原がウトウトしかけた時である。 コンコン!!  スモークの窓をノックされた。(??) 見ると警察官が二人こちらを伺っている。職務質問だった。松原は職質に腹を立てるが、こんな時間に地元では珍しい外車でコンビニの駐車場に長いこといれば明らかに不審なので仕方ないだろう。 「では、お車の中も見せて下さい」松原より年下の警察官が、丁寧ではあるが断れない雰囲気で松原に要求をしてきた。松原は(このポリ公!年下のくせにふざけんなよ)と心の中で毒づきながら、車内やトランクを見せる。「これは?」若い警察官が後部座席の足下に置かれていた包みを指さした。「ああ、それは…」先程源さんが置いていった包みだった。「西瓜ですよ。さっき送ってきた人の置いていった手土産です」開けてみると、それは見事な完熟の西瓜がそこにあった。職質が終わり、腹立ちから完全に眠気が無くなってしまった松原はそのままのテンションで自宅まで帰って行った。  そして翌日の夕方。本社勤務を済まし水戸営業所に赴いた松原が、先日の源さんの話をスタッフにすると、皆の顔が青ざめていった。営業所長が松原に、源さんが昨日の夕方に別宅のある石岡で交通事故で亡くなった事を伝えた。
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