後部座席

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「夕方?だって俺は…」深夜に乗せているのである。そんなはずはない。そこで検証をすることにした。ドライブレコーダーである。松原のドライブレコーダーは、車内と後方が映るような作りになっているのだ。メモリーカードを抜き、社内のパソコンに入れる。 「あ!」見ていた全員が声を上げた。映っているのである。運転席の丁度後ろに、源さんが。角度的に全部が見えているわけでは無いが、確かに源さんが運転席真後ろの後部座席に乗っており、運転席に手をかけていたのだ。しかし松原は気がついていない。車を出す時に、体をねじって後方の安全確認をする時、源さんの顔と松原の顔がかなり近づいているのに、気がついていないのだ。松原が車を走らす。常磐道に乗る。そしてしばらくしたところで、松原の話通り、睡魔に襲われ、臭いに気がついた松原がそこで初めて源さんを視認するのである。 「嘘だろう…」松原が青ざめていると、所長が「あの…もう一つ…見ますか?」と言って防犯カメラの機材を指さした。この防犯カメラは営業所の出入り口と、駐車場にも設置されていた。所長が閲覧用のPCで、昨日の午後からの映像を再生すると…。映っていた。16時くらいに、源さんの軽トラックが営業所に入ってきたのである。源さんは駐車場に車を止めると、包みを抱えて営業所に向かっていた。ところが、松原の車のサイドミラーが広がっており、鍵がかかっていないことに気がつくと、その後部座席のドアを開けたのだ。 「ほら。見てみろ。やっぱり乗っていたんだよ。普通に。生きている状態で。事故で死んだって言うのが間違えなんだよ」松原が言うと、所長は硬い表情のまま「いいえ、違いますよ。社長…」と言って画面を指さした。そこには後部座席に包みを乗せ、クスクスと笑いながら自分の車に戻る源さんの姿が映っていた。そして源さんは軽トラックで営業所を出て行ったのだった。きっと源さんは、後部座席の西瓜に松原が気づいて驚く顔を想像したのだろう。そしてそれを後日、話の種にしたかったに違いない。しかし源さんは、その帰り道に石岡の別宅の近くで不運な事故に遭ってしまったのだった。
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