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それがあったのは、夏から秋へと季節の変わり目だったが、気温的には夏の暑さが酷かった。
私は趣味に釣りがあって、その日も夜釣りに行ったんですけど、そこで不思議な体験をしました。
その釣り場というのは県内にあるそれほど大きくない漁港で、漁港への出入り口は狭く見つけ辛く、その南には海釣り公園もあることから不人気――穴場のような場所なんです。
まぁ、水深も深いところで私の胸辺りと、浅すぎて魚種が限られすぎているということもありますが……。
その日はなかなか魚が釣れなくて、竿を振っては次の漁港、竿を振っては次の漁港、を繰り返して最後にたどり着いたのが件の漁港です。
その時すでに竿を出すのも面倒くさくなり、とりあえず単身で港内を歩き、海の様子や先客が居れば釣果を聞いてみようと堤防へ向かいました。
相変わらず釣り客は少なく、その日は堤防の先に一人居るだけ。
釣人が帰るには、私の横を通らないといけません。なので、焦ることなく海の様子を見ながら歩いていました。
波はまぁまぁ。海水の濁りもなく釣りをするには良い状況です。
「もしかして、ここなら釣れるんじゃないか」なんて考えながら歩いていました 。 あることに気付いたのは、堤防の真ん中あたりに来たときです。
その堤防は、上から見ると平仮名のくの字のような形をしていて、その角の所でふと先端を見たんです。
そうしたら、先端に居た釣り人が居なくなっていたんです。海の状況を見ながら歩いていましたが、堤防は狭く、よそ見をしていても人が近づいたら気付きます。
そもそも、すれ違う時に位置に注意しないと、相手や自分が海に落っこちる可能性があるくらい狭い堤防ですから。
「海に落ちたのか?」と慌てて先端まで走りました。その間も、海面をライトで照らして、落ちた人が居ないか探しながら。
堤防の先端にたどり着き、周囲を見渡しました。だけど、誰も居ないし何も浮いていない。
人が居るのを見てから目を離したのは、ほん二、三分。そこの周辺の水深は深いところでも一,五メートル。それが、二〇メートルくらい先まで続いています。
それに、落ちたら落ちたで、水没音が聞こえるはずなのに聞こえていない。
見間違いだった、だったのかもしれませんが、私自身、目が良い方です。
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