第1章

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 いつも。  なぜかゲームセンターにいた。僕が父につれられてたのは土日のどっちかだが、どっちになるかは父次第だった。土曜も日曜も、どっちにも彼女はいた。  仲間には土曜だけの子や、日曜だけの子も結構多かったのにだ。  彼女はどっちでも会えた。  ……んぅ。  ◆  ……と、打って僕はキーボードから指を離す。 「あーもう、何も思い浮かばねぇ」  ファミレスでぼやいた。  ただいま、僕はエブリスタで開かれる稲川淳二の賞に送るのを鋭意執筆中だったわけだが、だめだ、途中から話が浮かんでこなくなった。普段はプロットを書いてから決めるのだが、今回はそんな余裕もなく、もう締め切りが大分近づいてるぜ、スピィーディーに書こう、スピィーディーに。と、何度もドリンクバイキングをおかわりしながら打っていたのだが、筆が止まった。いや、指が止まった。 「怪談って。現実と虚構が曖昧になるのがいい、だと思ってみたんだがな」  今まで、僕は怪談を一から想像して書いていたのだが、今回は元があるもの、というか自分の実体験を使って書こうとしたのだ。 「しかし、実体験といっても怖い体験なんてねぇ」  幽霊なんて見たことないし、怪しい現象も起きたことがない。  だったら、元は怖い話じゃないものを怪談にしてやろうとしたのだが。 「……はぁ」  いや、彼女には失礼な話だな。お世話になっておきながら。  いつもゲームセンターにいたってのも、気のせいかもしれないし。もしかしたら、僕が行かなかった日に早めに帰ったり、来なかった日もあったかもしれない。僕は毎日いたわけじゃないから、どうしても情報に穴がある。 「ぬぅ」  罪悪感と、年を取るにつれて衰えつつある想像力のおかげで、僕はただいま何杯目か分からないドリンクをおかわりする。  どうしたもんかね、早く仕上げて送りたいのにさ。  僕は空のコップにメロンソーダを注いだあと、「………」席に持ってく暇も与えず飲み干した。 「よしっ」  ◆ 「いや、何がよしなんだか」  僕は取材もかねて、再びあの地に赴いた。  ゲームセンターではなく、パチンコ屋の方に。 「………」  ごめん、取材じゃないよね。あぁ、玉が吸い込まれていく。蛇口から流れた水が排水溝に落ちていくように、玉が無惨にも搾取され、僕の手から奪われていく。 「あー、ちきしょう!」  二・三万があっという間になくなってしまった。
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