第1章

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 僕はこれ以上はまずいと財布を引っ込める。というか、現金がそれくらいしかなかった。貯金を下ろす? なんで、パチンコ屋の近くにはATMや金融会社のローンもできるかね。僕はかぶりを振ってほほを叩き、冷静になる。  やめよ。  これ以上、遊んでばかりもいられない。  パチンコ屋から出る。  で、僕は取材をするつもりはなかったのだが、怪談の賞とりたいと言った割には適当な神経だが、帰るとき、ふとゲームセンターのことが気になった。  パチンコ屋はもう二十年くらい経つが、改装したばかりなのかまだまだ現役で働いている外観。しかし、逆に隣にあるゲームセンターは今にもつぶれそうな見た目だった。  白い壁は亀裂が至るところに走り、欠損や変色も多い。中に入ると最新ゲーム機が並ぶわけじゃない。今じゃどこにもない格闘ゲームや音ゲーがある。おいおい、この音ゲー、シリーズが10以上も出てるのに初代があるよ。レトロというか、何というか。いまだに色褪せないその光景に少々とまどってしまう。 「みんな、言うこと聞いて楽しくゲームしようね」  彼女はいた。  こんな中世のゲームセンターに来る子供なんていないだろと思っていたら、いた。店の真ん中で、子供数名が向かい合わせの格闘ゲームで対戦したり、音ゲーをするのを見つけた。子供特有の甲高い声をキーキー上げて、楽しんでいた。  いや、きみたちが持ってるだろうスマホの方が画像もきれいだし、技術も上のものがあるだろうに、服装や身なりなど、今風の子供たちが僕が子供だったときのアーケードゲーム、そう九十年代のものをプレイしていた。  それは現実離れしてるというか、何度も目を疑い、こすってみたが、やっぱり光景は変わらない。  彼女も変わらない。 「あ、久しぶりだね」  小学五年生ぐらいの女の子が、僕の前にてくてくと歩み寄る。  僕は……彼女の顔をはっきり覚えていなかった。当時幼かったからってのもあるが今も……あれ、どうしてだろう。  彼女の顔が、頭に入らない。 「あれから、どうしてた?」 「元気にしてた?」 「ね、ゲームしようよ」  彼女は、昔のように手をのばし、僕を輪のなかに入れようとする。  いや、いやいや、と僕はそれを取らない。
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