恐妻家

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「僕も、部長のところみたいに、おしどり夫婦になりたいですよ。」 「ああ、君は、まだ知らないんだったな。 妻は、半年前に亡くなったんだよ。」 「・・・えっ?す、すみません。知りませんでした。」 「いやいや、謝らなくていい。謝るのはこっちだよ。 妻の訃報を君に知らせなかったのが悪いんだから。」 「ご病気か何かで?」 「ああ、急にな。脳内出血で倒れて、そのまま・・・。」 「今更ですが、お悔やみ申し上げます。」 「ありがとう。 妻が死んで、俺は、つくづく妻に頼りきりだったのがわかったよ。 妻がいないと、靴下のありかさえ見つけられなかったのだからな。」 「ああ、わかります。 部長は、いつもキチンとしておられますから。 ワイシャツだって、皺一つなくて どれだけ奥様が几帳面な方かが見てとれましたよ。」 「そうなんだ。妻は几帳面な女でね。 どこに何があるかを全て把握していたんだ。」 「素晴らしいですね。」 「ああ。俺が毎朝起きる前には必ず朝食が出来ていて、枕元には妻が着替え一式を必ず用意していた。」 「まさに、嫁の鑑のような女性ですね。」 「俺には出来すぎた嫁だった。いろいろな意味。」 「いろいろな意味?」 「おお、きたきた。まずは、乾杯しようか。 君の本社復帰を祝ってな。かんぱーい。」     
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