第1章

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 暑い。  猛暑がつづき、もう少しすればこの連日の地獄も終わると天気予報で言っていたが、最中に言われても、何の救いにもならない。  ぼくは畳の部屋で、エアコンと電気代を並べながら考えていた。  貧乏学生には辛いが、いやいや偉い学者だって、こんな暑いの無理だよと言ってたんだからいいだろ。  ぼくはリモコンを押してエアコンをつける。  ひやっ、とすずしい風が室内に流れる。あぁ、これだよこれ。これがいいのだ。  ぼくは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、タンブラーにそそいだ。これは東京で買ったもので、ストローもセットで、冷凍庫に入れると丁度よくひんやりするんだとか。  それに水が入り、蓋をしめて、エアコンの冷気が狭いアパートの一室をたゆたう中、ぼくはストローにクチをつけて。 「――ぶべっ!?」  違和感。  すぐさま吐き出した。  クチから、ストローから飲んだ水といっしょに髪の毛がこぼれる。 「っ?」  きもちわるっ。  誰のだよ。  まだクチに残ってるのでぺっぺっ、と吐いたら、女性のように長い髪の毛が出てきた。水にぬれたそれは畳にしみをつけ、異物感を放つ。 「……っ、がっ、ぁ、な、んだよこれ」  何で、こんな髪の毛が?  そんな。  だって、こんなのどこから。  タンブラーにはさっきこんなのなかったし。見落とし?  いや、見落としって、一体どうやってこんな長い髪の毛が入る余地があるんだよ。こんな長い髪の友人もいないし、恋人だっていないよ。はぁ、意味分からない。もちろんだが、ぼくもこんな長髪じゃない。  ティッシュで髪の毛を丸めて、そのままトイレで捨てようとしたが思いとどまる。もしかして、これ何かの呪いじゃないか。呪い?  だって、なにもないところから手品師でもあるまいし、髪の毛がこんなに出てくるわけがない。ホラー映画なんてあまり見ないが、ふと頭に浮かんだのは呪いという言葉だった。  呪い。  とりあえず、ティッシュで丸めはしたが、すぐに捨てはせず、知人に頼むことにした。  ◆  高校の頃に多少話したことはある。  その頃、彼は元気のある溌剌とした少年だったが、今じゃ見る影もない。 「あんだよ」  と、スマホで呼び出した彼は、大変ふきげんそうだった。
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