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彼は二年生になってからはクラスも変わり、しばらくすると家庭の事情で高校を辞めてしまったので、それからは疎遠になってしまった。たまたま会ったのが、つい最近。彼はだぼだぼのパーカーで、パチンコ屋にいた。
「出ないじゃん」
と、台をびしびし殴っていた。
体調が悪いのかマスクをしていて、三十分もしないで彼は出ていった。いや、ぼくも素行の悪い学生だからパチンコ屋にいたのだが、知り合いだけど話しかけたくないなと思ってたところ、換金所で待ち構えていた。
よう、元気にしてる?
あのときは、すごい上機嫌で話しかけてきたのに。
「お前、ぼくから呼び出したらすんごい嫌そうなのな」
「だって、あんときは俺金借りようとしてたし」
「はぁ? そんなこと考えて。おまっ、ざけんな。そうだと知ってたら、逃げてたよ」
「あーいいだろ。ためらったんだから。話してみたら割りと感じがいいから罪悪感出たんだよ」
彼が高校を辞めてしばらくしてから、妙な噂がたった。
カルト宗教にはまっただとか。
怪しい人物とつるんでるだとか。
滑稽なものとしては、霊能力者になったというのがあったが。
「あぁ、そうだよ。俺は霊能力者」
再会したらあっさり言うので、ドン引きするひまもなかった。本人もそのときは信じさせるつもりがなかったようで、一度言ったきり会話には霊能力者のれの字も発せられない。
「なぁ、相談があるんだ」
だが、緊急事態にぼくはそれを思い出した。
今からすると、あれは運命だったのかもしれない、とすら感じる。
ぼくは袋からティッシュに丸められた髪の毛の束を見せる。
彼はしげしげと見つめる。彼が本物である証拠はない、ただ発言しただけだしね。でも僕はすがった。心の弱い人間だからか。しかし、あっさりと彼は「なるほどね」と納得していた。
がしっ、と髪の毛をつかみ、じっくり眺める。
「呪われてるわ。これ、何回捨てても帰ってくるやつだよ」
「分かるのか」
「は? 言ったろ、霊能力者だって」
やっぱ信じてなかったな、とつぶやく。
そりゃそうだろ。誰だって霊能力者なんて。
「安心しろ。二千円でやってやる」
「にせんえん? え、何を」
「だからこれだよ」
と、彼は髪をにぎりつぶした。
すると、髪の毛がドライアイスのように白い煙を出して消えてしまった。
「あ、しまった。予想より弱かったな。これだけでつぶれちまった」
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