三 「この真っ暗な世界で」

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三 「この真っ暗な世界で」

 この時間になると、昼に休んでいた分を取り返すように、蛙が必死に声を出す。  いくら真夏と言えど、夜の風は体を徐々に冷やしていく。いつものように半袖短パンで家を出てしまったケイタは、体をすり抜ける風の冷たさに身震いをした。  右手にかけたG-SHOCKのライトを点けると、小さな画面が「0:57」と、普段あまり見ることのない文字列を光らせている。  ーー俺は星を見たい! この目で見たい!  当の本人はまだ来ていない。寂しそうなケイタに寄り添ってあげるように、辺りのクヌギが風に揺れる。  中学校の向かい側にある小さな山、「山根山」。名前に山が二つ入っているが、大きな山の根っこにちょこんとあるから山根山という名前になったらしい。ケイタの後ろに続くひび割れた階段を上ると、すぐに山の頂上だ。頂上とはいえ、高さは学校より少し高いくらい。でも、そこからみえる町の眺めは良いもので、ケイタはいつもそれを見ると、田んぼが広がるこの町を独り占めしている気分になった。 「いやぁ、悪かった悪かった」     
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