三 「この真っ暗な世界で」

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 五分遅れで、ヒロトはやってきた。「大丈夫大丈夫」とケイタが笑う。右手に持っているビニール袋の音が、木々が葉を揺らす音と混ざり合う 「見てよ、これ」  そう言うとヒロトは、ビニール袋の口を広げて見せた。 「うわ! やりやがったこいつ」  中には今朝作った大きな筒の形をした望遠鏡が入っていたが、中にはめられているはずの虫眼鏡のレンズがひびだらけで放り出されていた。 「いやあ、落とした落とした」 「落としたってお前! レンズって一番大切な部分だから!」 「まあまあ、多分大丈夫でしょ。そんなことよりほら。良かった、ちゃんと星が見える」  上を見上げたヒロトの瞳は、まるで夜空をそのまま閉じこめたみたいに輝いていた。 「もう上まで行かなくて良くね? 望遠鏡も壊れたし」 「いいや、行かないと意味がないって。景色違うって絶対」  ヒロトは袋をガサガサ揺らしながら、今にも崩れそうな階段を上り始めた。両側からとげのある低木がはみ出した狭い階段を、二人は上っていった。前を行くヒロトの向こう側は、紺の布に宝石を散りばめたような美観が広がっている。 「銀河鉄道の夜って感じだな」 「確かに!」   銀河鉄道の夜。ケイタはそれが一体どんな話なのかは知らないが、多分、今自分が見ているような景色が物語に広がっているだろうと思った。それはきっとヒロトも同じだろう。     
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