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一度胸の内を声に出して伝えると、あとは水が満タンに入ったペットボトルに穴を開けたみたいに、次々と言葉が外の世界に飛び出していく。穴を開けた場所が上の方ならば少しの水が出て行くし、それが下の方なら、上にたくさん溜まったたくさんの水が出て行く。
「思えば、ゲームとかマンガとかも今はあまり興味ないし」
この言葉を聞いて、ヒロトにどう感じて欲しいのか。一緒に現実を受け入れて欲しいのか、それとも「そんな事ない」と否定して欲しいのか、両方かもしれないし、どちらでも無い気がした。
「まあ、そうだよな。いつの間にか変わったよな」
そう言うヒロトの声は、いつもより元気が感じられない。いつもの彼の調子が太陽だとしたら、今日の彼は「月」だ。明かりのない夜空の闇から、そっと地上を見守っている月。そんな優しさが、今日のヒロトにはあった。
真夜中のような静けさだ。カチャン、と音がしたかと思えば、それはヒロトが持っていたハサミを静かに置いた音だった。
ヒロトは一体、どこを見ているんだろう。ケイタが彼を見つめても、その視線は交わらない。ヒロトはただじっと、先生に怒られている子供みたいに、下を見つめている。
「……急にどしたの」
自然な流れでそう言ったが、これはケイタがずっと聞きたがっていた事だ。
ヒロトの視線が、そっとケイタに移る。
「……俺たちは、これから、何が何でも変わらないといけないんだなって事に、最近、気づいちゃったんだ」
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