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はじめは理解できないものが目の前に出現し、何が何だかと、恐怖すら抱かなかったのが、彼らに変化が起こった。己が裸であることを恥じ入ったはじまりの男女のように、彼らは顔を変化させていく。無表情だったそれは、さざ波が徐々に力をまし、大きな津波へと変化するように。
ああああああああああああああああっ。
叫び声だけは、どの時代でも大して変わらない。いや、人種、国も関係ないか。大抵は、このような喉が張り裂けそうな声を出す。
二人の前には、映像が出るものが置いてあった。
映像が出るもの。
そもそも、映像という概念が――いや、しつこいだろう。ともかく、この時代に、この二人の前には絶対現れないものが目の前にあった。
二人はそれに絶叫し、爪で互いの肌を傷つけるほど抱きしめあう。
だって、彼らには理解できなかった。
大きさは成人男性ならてのひらに収まるぐらいのもので、長方形か。色は全体的に黒で、丸いくぼみが下の方についてある。それは横に置かれ、映像を出していた。映像で、お笑い芸人二人が漫才をしている。
男と女はそれを妖怪かと。
妖怪かと思った。このような小人がいたのかと、妙な方向に勘違いした。それも道理かもしれぬ。そもそも、映像という概念すら――叫び声。
二人は再び叫んだ。
もうさっきので声が枯れていまい、あまりにもさびしいものであったが。
彼らの視界が急に真っ暗になった。
映像を写し出す物体は、辺りを照らしてもいたが、それが急に消えてしまう。
何事か、と二人はプレス機ではさまれたかのように互いを抱きしめる。そんなにすると、互いを潰してしまうぞと、笑いかけたくなる。
彼らの耳に、不可思議な音が流れる。
それは川から桃が流れるかのように不思議で、奇妙なものであった。それは彼らが知るはずのないギターやら、ドラムやら、といった楽器が使われてるのだが、二人は知るはずがない。
距離。
あまりにも、時間という距離があった。
もちろん、日本の田舎に住んでるのもあるが、それ以上に時間という距離があった。これは、地球から月よりも遠い、とても遠い、距離である。
彼らはとんでもないとこに逃げ込んでしまったと、後悔する。ようやく思考が追い付いてきたのだろう。やっと、こんなとこに来なきゃよかった、と思い始めていた。だが、遅い。
彼らは妖怪に襲われてると認識している。
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