熱虫症

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太陽はとっくに沈んだ薄暗い路地裏を、汗を拭きながら歩く青年サラリーマンがいた。 気温はまだ30℃もある。 晃は自宅アパートにたどり着き、玄関を開けた。 ムッとする空気だけが彼を迎えた。 慌てて靴を脱ぎ、玄関からキッチンを通り抜け、急いで奥の部屋に入り照明をつけた。 「おっと」 左足のすぐ横に、飲みかけの缶ビールが置いてあり、危うくひっくり返す所だったのを回避、安堵の吐息を吐いた。 部屋には、食べ残しのポテチの袋、吸い殻の溜まった灰皿、昨日の下着、古い週刊誌。 足の踏み場も無いほど、物が散乱していた。 浮き彫りになった散らかり放題の部屋を気にやむ事もなく、彼はキョロキョロと辺りを見渡す。 空のコンビニ袋を何個も足で蹴り、滴る汗を苛立ち、アチコチと探した。 「何で、ねえんだよリモコン」 外もまだ暑かったが、室内はなお暑く、湿気と、生活臭でムッと鼻を突く感じが堪らなく不快だった。そのためか、冷静さを欠いていて、昨夜自分がどこにリモコンを置いたのか、すっかり失念していた。 暑さのため、苛立ちがピークを迎える。 拷問を受けているような、絶望感と憤り。それと、強い敵意を、その散らかった部屋に向けていたその時、晃は白い小さなリモコンを見つけた。 「え、うわっ」 しかし彼は、人心地つく間もなくビクリと気を動転させた。
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