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「悪いことは言わない。それを全てこちらに渡すんだ」  Ⅹはそう言った。  しかし、Ⅹと口走ったらこの身がどうなるか分からない。だから今、この男を呼ぶ名は無いと言えよう。 「そんなものを持って行って、いったい何の役に立つというのだ。我々に変わって大東亜を征服しようと言うのかね。第一、その人数でどうやって、これらを全て持っていくのだ」  極寒の中、部屋には緊張感が張り詰めていた。口から漏れる白い息が、ゆっくりと舞い上がって、そして見えなくなった。 「こうするのさ!」  その瞬間、部屋が暗闇に包まれた。そして足元がグラッと揺れたかと思うと、金属のきしむ大きな音が部屋中に鳴り響いて、「なんだ、地震か? 停電か?」部隊員は口々に喚いた。 「静まれ!! たかが地震と停電で何を怯えるのだ!!」  揺れに負けじと、今度は部隊長の怒号が鳴り響く。しかし、その状況は明らかにおかしかった。妙な浮遊感はまだ若かった20年前の震災の時とは明らかに異なるものだった。 「静まれと言っているのが聞こえないのか!!」  そう言いながらも部隊長の声はだんだんと小さくなっていた。というより、遠のいていた。その後、部隊長が怒鳴り上げることはないまま、突然鳴ったキーンという金属音と共に、一度大きく揺れ、すぐに揺れは収まった。静寂が部屋全体を支配する。そして間もなく、電気が点いた。 「どういうことだ!」  私は叫んだ。明るくなった部屋から、ⅩやⅩの部下が忽然と消えていた。 「部隊長が・・・消えた?」「ぶ・・・部隊長、・・・? どちらにいらっしゃいますか?」  部隊員達は喚き、私は部屋が暗くなる前にⅩの部下達がいたスペ―スに足を踏み入れた。 「いたぞ! 部隊長だ!」  私はその時、部屋の隅――実験用の器材や炉、核の反応装置などで死角となっていた隙間に、猿轡をはめさせられ、手足を縛られて気を失くしていた部隊長の姿を見つけた。皆で駆け寄り、部隊長の猿轡をとり手足を解いた。どうやら器材は何も盗まれておらず、部隊長が縛られた以外何も変わっていなかったようなので、我々は部隊長を運び、ベットで休ませようと部屋を出るたった一つの扉を開けたが、目の前に広がっていたのは、
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