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③【古いカーテン】
Fさんが定年退職後、再雇用制度で最初に行った学校というのが、とある県立高校で、そこはFさんと同様に再雇用で来ていたNさんとAさんがいた。
一番の古株のNさんがリーダー的な存在で、Fさんに懇切丁寧に仕事を教えてくれたという。
「その日は、体育館のトイレの洗面台で水漏れがあってね、部活動の生徒さんたちが帰った後、僕はNさんに連れられて、体育館に向かったんだ」
季節は晩秋で、辺りは薄暗くなっていた。
体育館のトイレに着くと、Nさんはすぐに持っていた折り畳んだ布を広げ始めた。
「昼間はいらないんだけど、暗くなったらこれが必需品なんだよ」と言う。
Fさんは作業時に床が汚れないようにするための敷物だと思っていたが、Nさんが広げたものを見ると、なんと古びたカーテンだった。
元は明るい花柄だったようだが、薄汚れていて所々に油染みもある。上の縁には何に使うのか、カーテンレールに掛けるためのフックがいくつかあった。
「Nさん、その薄汚れたカーテンを、これから修理する洗面台の鏡に掛けたんだよ。フックを鏡と壁の間の隙間に引っ掛けてね」
作業の時、鏡を傷つけたりしないためかと思ってNさんに訊いてみたら、
「ここの洗面台は壁の両側にある関係で、鏡が合わせ鏡になっているんだ。暗くなってからは見ない方がいいんだよ」とのこと。
確かにこのトイレに入ると、まず両側に洗面台が2台ずつあり、それぞれに鏡があるので、合わせ鏡になっている。
「もし、カーテンで隠さないで作業をやったら、どうなるんですか?」とFさんが恐る恐るNさんに尋ねたら、
「Aさんみたいになるよ」と言って、苦笑いしていた。
「そう言えば、最初の顔合わせの時に、Aさんにあったんだけど、やたらと後ろの方を見るんだ。ご本人はさり気なくやっていたようだけど、見ていてちょっと変だったよ」
NさんはAさんに心療内科とお祓いのどちらを勧めようか、迷っていると言っていたという。
(了)
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