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ウチは二月がよくないの…… 彼女のその言葉は、余命宣告を受けていた母親の具合が良くない時だったか、物置小屋で祖父の首吊りを発見した時のメールに添えられていたか、あるはその両方だったか――   下の娘の夜泣きが始まったのは卒園を間近に控えた久しぶりの大雪の深夜だった。 彼女の傍らで寝ていた娘が、突然体を掻きむしりながら身悶え泣き喚いた。 あまりの騒ぎに母と上の娘が二階から駆け下りて来る。 母と二人で抱き抱えるようにしてパジャマを脱がしたが、自分で引っ掻いたミミズ腫れ以外に外傷的なものは見当たらない。困惑しつつも、ならば余計に心配になり救急車を呼ぶかどうかと迷うも、この大雪でここまで来れるかどうかと母と大喧嘩になり、さらに娘は大泣きをする。たまりかねた長女が母屋で寝起きする父を引っ張って来る。 途端に娘が泣き止み、ぐにゃりと布団に倒れ伏し、年に似合わぬ派手な鼾をかきだした。  翌朝、大人達の心配をよそに、病院に連れて行く手を潜り抜けるようにして片道30分の保育園へ駆け出しす娘。 その夜も突然の夜泣き。 翌日も、また翌日も。 朝になると何事も無かったように、いや、本当に当人は覚えていないという娘を病院に引っ張っていくが、検査の結果は異状無し。 逆に虐待を疑われたと愚痴の電話に、詳しい状況を聴くと、娘は「黒いネズミの親子」に体を齧られているのだそうだ。  泣きじゃくる娘を押さえつけ、なんにもいないからと叱った母に、娘は首筋から何かを引き剥がすと、目の前にそれを突き付けた。 「このネズミさん!!」  幼子の涙で滲んだ恨みがましい真摯な目。 母と祖父母、姉にも見えない二匹のネズミ。 それが娘を苛むのだという。 私は泣いている間に娘にそのネズミの絵を描かせた。 クレヨンで描かれたそれは、真っ黒な棘ばった歪なイガ栗。しいて言えばトトロに出てくるまっくろくろすけを凶悪化したような躰から太いしっぽが伸び、その先端が掃除機のような形になっていて、びっしりと三角形の牙が生えているという、稚拙であるが妙な生々しさを感じる代物でもあった。 私、これ、子供ん時見てるわ…… 写メに見入る私に、彼女はそう言った。 20数年前。彼女もそれに齧られたのだという。 曖昧な記憶の中、黒い二匹に襲われ、夜中に母親の手を振りほどき、母屋の父の元へと逃げ込んだ。 いや。確か逃げ込もうとして……  
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