救いの電話

2/8
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 友達と二人で東尋坊に行ったときの話だ。  高校からの付き合いである栄太の発案だった。 大学の夏休み、揃って彼女がいなかった俺たちは、暇を持て余していたのだ。 馬鹿話をするうち、夏らしく肝試しでもしようかと盛り上がった。  福井が地元の俺たちにとって、心霊スポットと言えば東尋坊だ。 観光地としても有名だが、やはり自殺の名所というイメージが強い。 昼間は客で賑わっているが、夜は別物だ。  車で到着したときは真っ暗で、静まり返っていた。  スマホアプリの懐中電灯を使って進む。 崖に近づいていくと、脇の一角に電話ボックスがあった。 辺りが闇に沈む中、そこだけが明るい。 蛍光灯が古いのか、煤けたような陰気な光だった。 「今から、あそこに一人ずつ入ろうぜ」  栄太が指さす。 透明なドアには大きく『救いの電話』と書かれていた。 「救いの、ってなんだ?」 「自殺者が自殺を止めてほしいから、あそこから電話かけたりするんじゃねえ? 心霊写真よく撮れるらしいし、お互い動画でも撮りあおうぜ」 「お前、本当そういうの好きだな」 「面白そうじゃん。ほかにもさ、いきなり電話がかかってきて、女の声で『助けて……』って」  嬉々として語る栄太に少し呆れながらも了承する。 「んじゃ、ちゃんと撮れよ!」  栄太はいそいそと電話ボックスに向かった。 離れた場所からその様子をスマホに収める。 彼は珍しそうに狭いボックス内を見回したのち、けろりとした顔で戻ってきた。 「どう? なんか映った?」 「いや、今んところは。見返してないから分からないけど」 「んじゃ次、ヒロの番な。なんか起きると良いな!」  背中を叩かれ、歩き出す。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!