救いの電話

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開かない。  一気に毛穴が開く。 力を込めて押した。 ガタガタと鳴りはするが、やはり動かない。 「どうなってんだ! おい、栄太!」  からかわれることなど頭から飛んでいた。 脂汗が噴き出してくる。 質の悪いイタズラのほうがましだ。  改めて闇の奥を見る。  栄太はまだ、緩慢な動きで手招きしていた。 「撮影やめろ! くそっ、開けろってば!」  かっくん、かっくん、と妙な手招きが続いている。 彼の顔は闇に溶けたままだ。 スマホのライト近くにあるはずなのに、不自然なほど顔が暗い。  ……本当に、あそこに顔はあるのか。  そう思った瞬間、ドアを揺する手が止まった。  あいつのそばには駆け寄りたくない。 ここから出られたとしても、栄太に近づくのは駄目だ。 なぜだかは分からないけれど、本能的にそう思った。  自殺者たちが飛び降りた崖はすぐ近くだ。 この暗闇で『アレ』と二人きりになるくらいなら、ここの方が壁に守られているだけ安全なんじゃないか?  胸が苦しくなってきた。 耳にまで心臓がせり上がってきてるのではと思うくらいの拍動を感じる。  深く息を吸った。 風を切るような音がして、慌てて息を潜める。  唐突に、高音が響いた。
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