1

3/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
僕と彼女は都会から引っ越してきた転入生だった。僕の方が半年ばかり早く田舎の町にやってきた。 初めは馴染むのに苦労したがなんとか溶け込んできたころに彼女は転校してきた。 僕と違い、彼女は最後までクラスで浮いていた。田舎を見下すように見える態度に同級生の女生徒たちは反発を覚えていたように感じられた。 孤立して一人でいることが多かった彼女と少しだけ話したことがある。 向こうで好きな人がいてここに来たくなかったとか、一人暮らししようとしたが反対され押し切られたとか聞かされた。 「ねぇ、なんで馴染めるの?」 そう聞かれたとき何と答えただろうか? 「そんなめんどくさいことよくやれるわね」 呆れたような返事をもらったことを覚えている。 林間学校でグループに分かれた時、案の定彼女だけ残った。彼女は一人でいいと主張したが結局数の少ないグループに入れさせられた。 グループごとに近くの小さな山のハイキングコースを歩く際、彼女はグループからはぐれ、そのまま行方不明となった。 大騒ぎとなり、担任の先生が学校を辞め校長も変わり、クラスの何人かがテレビの取材を受けたりしてどこかお祭りのような浮かれた空気がクラスを支配していた。 なにかにつれ彼女の名前を毎日のように聞かされた。 半年過ぎても情報は更新されず、捜査は打ち切りとなってからクラスは彼女が来る前のような、はじめから彼女なんていなかったかのように落ち着きを取り戻した。 そして、それきり彼女の名前は聞かなかった。 アパートについてからも彼女の名前と裸のホームレスの姿が頭に残り続けた。 同窓会があり、居酒屋で再び彼女の名前を聞いた。 あの時、彼女と一緒だったグループの一人がことの真相をあっさり話した。グループのリーダーが彼女と軽い喧嘩をして、腹いせに彼女が来る前に案内板の矢印の位置を獣道の方に向くように動かしたらしい。 「時効だよね」 と笑って言っていたが許されることではないだろう。 胸糞悪くなって二次会には出なかった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!