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彼は渋々といった感じでPCを操作し、回線を開きます。
「わかりました…もしもし、鈴木さん?鈴木さーん?どうされました?」
少しの沈黙の後、怯えた老人の声がセンター内に響き渡りました。
「助けてくれぇぇぇっ、婆さんが、婆さんが追っかけてきよる。助けて…」
「…はいはい、少々お待ち下さい。」
保留状態にした後輩がこちらを向き、指示を求めます。私も同じように、主任に
視線を向け、彼の指に示された×マークを確認し、同じ動作を後輩に見せます。
頷いた彼は保留状態を解除し“いつもと同じ返答”を鈴木さんにお伝えしました。
「…はい、お待たせしました。鈴木さん、あのですね。鈴木さんの奥様、お婆さんは
2年前に亡くなられています。ですから、今見ているのは幻か、熱中症かもしれません。
だからですね。早くお家に帰って、たくさん水分を…」
「本当におるんじゃ…」
「ああ、ハイ、もし、仮にですね。お婆さんが見えていたとしてもですね。こちらが出来る支援は特にありません。”該当外”です。ハイ、では、お気をつけて。お休みなさーい。」
会話を一方的に終わらせた後輩がこちらを向きます。私は“それでいい”と言った風に
頷きました。鈴木さんに痴呆や認知症の疾病面はありません。とても元気な方です。
ですので、幻覚を見ているとは思えません。きっと鈴木さんが見ているモノは…
「ふ、福祉が出来る支援じゃないよ。該当外…坊さんを呼ぶんだな。」
そう考える私の隣で、主任がどうしようもないと言った風に頭を振って、呟きます。
彼の腕には鳥肌が立っていますし、私も、きっと後輩も、背筋が寒くなっている事でしょう。
今後は、こういう話が増えていく。そんな気がしました…(終)
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