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昭和の終わり頃のことだ。 建設の仕事をしていた私は、自分ひとりしかいない事務所で、煙草を吸いながら残業をしていた。ふと気配を感じて視線をやると、首の横から作業服の腕が伸びている。それが妙に、大きな腕なのだ。ひょいひょいと曲げ伸ばしをして、なにかを欲しがっている指の一本が、私の腕ほどもある。 だとしたら、からだはどれほどに大きいのだろう。 奇妙に思ったけれど、そのとき私はとても忙しかった。 なんだ、煙草が欲しいのか、と1本分けてやると、嬉しそうにそれを握り、いったんひっこんでまたすぐに手が伸びる。足りないのか、ともう1本渡すが、またすぐに手は出てくる。なんだもう、とさらに1本渡し、箱に残っていたほとんどを渡してしまったところで、ようやく手は出てこなくなった。 ああよかった、と帳面に向き直ると、うしろからおそろしい量の煙が私に襲い掛かってきた。 分けてやったのに失礼なやつめ、だいたい吸いすぎはからだによくないぞ、と、咳き込みながら思ったのだった。
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