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妙にトラブルの多い現場だった。 いまとは違い、建設の現場では多少の怪我はつきもの、とはいえ、それにしても多いのだ。 それも、大きな事故ではない。やれささくれが指に刺さっただの、蚊を叩こうとしたら勢い余ってつき指をしただの、大したことはないのだが、そのたびに仕事が止まる。 皆揃って困り果てていると、ひとりの仲間が近所の商店で酒と塩を買ってきた。真似事ながら、供えてみようというのである。見よう見真似で祭壇をし、揃って手を合わせて目を閉じる。これできっとうまくいくようになるに違いない、と皆が思ったのだ。 だけれど、事故は減るどころか、どんどんと増えていった。 靴擦れができたとか、吹き出物ができて痛くて工具が持てないだとか、そんなことが間断なく続いて工期はどんどん遅れてゆく。 これはもう、誰か偉い人でも呼んでくるほかないのか、と悩んでいたところ、このあいだ酒と塩を買ってきた男がアッと声をあげた。待ってろ、と言い残して、走ってゆく。 そうして戻ってきた腕に抱えていたものは、饅頭とショートケーキだった。なんだそれ、と呆れながらも皆で手を合わせる。 すると、ぴたりとトラブルは起こらなくなった。 きっと、甘党だったんだ、と思った。
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