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トランシーバーの調子がおかしい。 この間新しいのを買ったばかりだというのに、どうにも妙に音が悪いのだ。 連絡したいことを伝えようとしても、ノイズだらけで、相手にうまく伝わらないのだ。なんだ、どうした、もう一度言ってくれ。そんなことばかりを言い合って、結局業を煮やして相手の場所まで駆けてゆくこともしばしばだった。 勿論、文句を言って修理に出した。けれど、症状が出ないと言われてそのまま戻ってきてしまった。これでは仕事にならん、とぼやきながら、向こうで何を言っているのかよくわからないトランシーバーに耳をくっつけて聞き取ろうとしていた、そのときだった。 おや、と思ったのだ。 これはノイズではない。 よくよく耳を澄ましてみると、どうやら子供の声が混線しているようなのだ。楽しそうな笑い声、ヒミツだよと何かをおしえてくれようとしている声。それは、他所の電波が混線しているというよりも、どうやらここで工事をしている我々に話しかけている声だった。 仲間のひとりが、弁当についてきた紙コップの底に穴を開けはじめた。何をしようとしているのか、皆すぐにわかった。糸を持ってきて、ふたつのコップを繋ぐ。 それを置いてやると、ノイズはたちまちおさまった。 休憩時間になって、コップの片側に耳を当てた仲間のひとりが、おい、聞いてみろ、と目を細めた。きゃあきゃあとはしゃぐ子供の声に耳を傾けることが、しばらくの間、現場では流行した。
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