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「ありがとう。私の我が儘、聞いてくれて。あとはあんたが、この心臓を抉るだけ。私は異能をかけないから、あんたなら簡単にできるはず」
「うん……」
既に、決心はついていた。白い少女は立ち上がる。そして、姉の左胸に手を置き、顔をじっと見つめた。ためらいなどない。これが、大切な人への、精一杯の恩返しだから。
「また後でね、お姉ちゃん」
その瞬間だけは、顔を伏せた。姉の鮮血から目を逸らすため。そして、姉に涙を見せないためだった。
やがて、白い手が心臓を貫いた。その生々しい感触が恐ろしくて。早く時間が経つのを願っていた。だが、そのとき、
「今まで怖かったろう?」
「え?」
頭を、撫でられた。思わず顔を上げる。姉は、笑っていた。少し申し訳なさを含んだ、しかしそれでも輝いた、美しい笑顔だった。
「よく……頑張った……ね」
それだけ言って、笑顔と一緒に体が崩れ落ちた。白い少女は、急いで腕を引き抜き、姉の体を抱きかかえた。異能の力は既に失われ、海に沈みそうだ。
「なんで、今……」
大好きな姉は最期に、自分を褒めた。
「お姉ちゃん……」
爆発する喪失感。せき止めていた何かが、流れていく。それを表すかのように、涙が一気に溢れ出た。
「お姉ちゃん……」
最後に残ったのは、号哭。白い少女は、海の上。姉だったものを抱えながら、死ぬまで、泣き叫び続けた。
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