エアー・ダイビング

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 徐々に頭が下……つまり地面の方へと傾いてゆき、かなりの時間をかけて俺の体は完全に上下逆さまの状態となった。  だけど、血液の逆流で頭に血が上る様な感覚は感じられない。  顔が赤くなると言う事も感じられず、苦しさも無く上下逆転の世界が俺の視界を占めていた。  本当ならそんな事は有り得ない筈だ。  勿論、無重力空間ならばそんな現象もあるんだろうけど、今俺が見ている、そして俺の体がある世界は、少なくとも今まで普通に暮らして来た地上世界に他ならない。  世界の法則として地球が発する重力の影響で、宙にある物は地面の方へと引き付けられる筈だ。  それは体だろうと血液だろうが同じ事の筈だった。  でも、今俺が実体験している状況はどうだ?  空中で真っ逆さまの状態なのに、それを感じさせる実感が全く湧かない。  それどころか、まるで空中遊泳していると錯覚してしまう程だ。  その時だった。  ―――グ……グググ……。  体全体が俺の足元、つまり上空の方へと引っ張られる感覚に襲われたんだ。  それと同時に頬や肩、胸や腹や腕に足と言った部分で圧迫感を受けている事に気付いた。  スローモーションの世界で首や顔を動かす事は勿論、眼球さえも思い通りに動かせないけれど、思考だけは確りと俺の感覚で働いている。  初めて受ける感覚の正体を、その唯一正常に働く思考能力で必死に考えた。  ―――……そうか……これが……。
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