19人が本棚に入れています
本棚に追加
そして俺は、一つの結論に近い仮説に辿り着く事が出来た。
これは所謂、「超感覚」と言うやつに違いない。
格闘家やプロのアスリートによくあると言われる現象で、ある特定条件に達すると周囲の世界が緩やかに、まるで止まって見えるなんて言っている人の話を聞いた事がある。
きっとその現象に違いないと考えたんだ。
本当なら、長い時間をかけた修練やトレーニングでその境地に辿り着くんだろうけれど、一般人でも極限状態に達すればその「超感覚状態」に陥る事があると言う。
例えば、死の間際に見る「走馬燈」等がそれにあたると思う。
走馬燈とは、一瞬で過去の思い出を次々に脳内再生するって事だけど、つまりその時間を瞬時に作り出してるって事だ。
通常ではありえない程脳内の思考速度が加速して、まるで周囲の状況を止まっているかのような状況にする現象なんだろう。
正しく今、俺が体験してる状況がそれにあたる。
死に迫ってる状況で、気を失う事も無く超感覚状態に陥る。
その結果、今までは一瞬すぎて実感する事なんて出来なかった事を、ゆっくりと認識する事が出来ているんだ。
―――う……うぐぐ……。
体全体を押さえつけている様な感覚は、体が受けている大気の影響だ。
落下時に発生する高速移動とそこから生じる大気の抵抗、つまり体が「風」を受けている、受け続けている感覚ってこんなに強いものだったんだな……。
フリーフォールなんかでも、それはほんの一瞬で終わってしまうから今まで感じる事なんてなかったけど、もし長時間晒され続ければ風は爽快感を与えてくれるものでは無くて、巨大で分厚い障害物以外の何物でもないんだと思い知った。
更に落下している状況から、髪や手足が後方に引っ張られる感覚を受けている。
決して強い力じゃないけれど、引かれ続けるとなると鈍い痛みを与え続けられているみたいだった。
俺は今、死んでいるのでも無ければ死のうとしている訳でも無い。
緩やかに死へと向かっているのだ。
最初のコメントを投稿しよう!