来世を信じて

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 季節は春も終わり。  もうすぐ五月になるんだから、肌に触れる風が冷たいって感じる訳が無い。  でも、俺の立っている場所を考えれば、その空気が冷たいのも分からない話じゃないはずだ。  ―――ここは校舎の屋上……。  安全フェンスを乗り越えた、屋上の縁に俺は立っていた。  四階建て校舎の屋上と言えば、高層マンションと言わず、少し階層のある建物よりも随分と低い。  それから考えれば、通常ならばそれほど怖いと感じる様な高さじゃない筈だった。  でも、今の俺にはとても怖いと感じる高さである。  建物の縁に立っていると言う事も、理由の一つなのに間違いない。 それがもし三階建て、二階建て……高さが二メートル程度であっても、足元が心許なければやはり恐怖を感じる事だろう。  今、俺が立っているのが地上二十数メートルなんだから、怖いと思わない方がおかしい話なんだ。  冗談でも僅かに後ろから押されれば、俺はあっという間に遥か下方の地面へと転落してしまうんだからな。  でも空気が……風が冷たいと感じている理由は、そんな崖っぷちに立っているからだけでない事を、自分自身で理解している。    ―――俺はこの場所に、人生のケリをつける為に立っているんだ。
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