海岸線

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 川田が冗談を言うような性格ではないことを知っている野口さんの脳裏をよぎったのは、若年性の痴呆症だった。これはちょっと深刻かもしれない。そう感じ取った野口さんは「今どこにいるんだ?」と場所を聞き出した。 「海沿いの道路だ。俺は今、車から降りて外で話しているんだけど、車の中にお前が乗ったままだ」そう話す川田の声の後ろからは、波の音が聞こえていた。 「その男と電話を代わってくれ。話がしたい」  野口さんがそう言うと、川田は「わかった」と素直に受け入れ、「ゴソゴソ」とマイクに雑音を拾わせながら歩いていた。しばらくすると「電話には出たくないと言っている」と返してくるのだった。 「だったら俺が今からそっちに行く。そこで待ってろ」  野口さんは旅館を飛び出すと、車に乗って現場を目指した。目印になるような具体的な建物を聞き出さなくても、海沿いの道路は一本しかないため、そこを走っていれば必ず会えるようになっていた。
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