第2章

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ワインに酔った彼女は、露出した肩をピンク色に染めて、上手に話せなかったらごめんなさいと断った上で、話を始めた。「知合いのお家で、お庭にモミの木を植えてクリスマスツリーにしたいって、ご主人が探しておられたんです。話を聞きつけた或る資産家の方が、別荘の敷地に生えている立派なモミの木をタダで譲ってくださることになって、お友達と掘り起してきて、お庭に植えたんです。」最初に異変を気づいたのは、その家の奥さんだった。「正確には、三歳になるお嬢ちゃんでした。木の高い所にある枝の下で、お嬢ちゃんがくるくる回っていたんだそうです。奥さんが『それは何の遊び?』って訊いたら、『あそこでくるくるしてるみんなのまね』って枝を指さして言うんです。」母親がいろいろ聞いてみてわかったのは、幼児を含めた家族らしい四人の男女が木の枝から首を吊ってぶら下がっており、縄がよじれて死人の体がくるりくるり左右に回るのが、幼い娘に見えているのだった。「子供さんが、有りもしないものを想像で見えると主張することは、ままあります。」と彼女は言う。「けれども、お嬢ちゃんが話しているのは、空想などではなく、現に自分が見ているものを母親へ伝えようとしている様子だったと奥さんは語ってくれました。ご主人にも奥さんは話しましたが、当然、取り合ってもらえません。」気味は悪いが、奥さんは対処法を思いつかないことから、害さえ無ければ、当初はこのまま放っておこうと思っていたそうだ。それがそうもいかなくなったのは、近所の子供達が遊びに来た時、小学生の男の子が、低い枝に縄跳びの縄をかけて、自分の首へ巻き付けようとするのを見たからだという。「『危ない遊びをしては駄目』と言って止めたそうなんですが、奥さんがゾッとしたのは、男の子は、自分が何をしようとしていたのか前後の記憶が無かったらしいのです。『この樹は、首吊りを誘っている。』そう直感した奥さんは、子供達の手が届く高さにあった枝を数本、切り落としました。枝を切っている最中、物凄く恨みのこもった眼で睨まれている気配がして恐ろしくてならず、ずっとお経を唱えたそうです。」枝を落としたことで、ひとまず子供達へ害が及ぶのを防いだ奥さんは、その夜、帰宅したご主人へ真剣に樹の処分を頼んだ。相変わらず信じては貰えなかったが、根負けして、樹の伐採には渋々同意してくれた。次の日の朝、庭に出た奥さんは絶叫した。
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