忘却

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依然として老人ホームは決まらないまま、ばあちゃんはウチで暮らしている。 「ばあちゃん。いいかげん、部屋くらい覚えてよ」 言っても無駄だとはわかっていながら、さっきまでの恐怖心がゆるんだ拍子で、僕は強めに言う。 反応はない。 僕は少しいらだって、 「ばあちゃんッ」 と、今度はさらに強めに言った。 と、ばあちゃんがよろめく。 闇の中をふらふらとしながら、ばあちゃんは倒れようとしていた。 僕はあわてて駆け寄った。 前から抱え込むようにして……。 ばあちゃんと目が合ったのはその時だ。 ばあちゃんは怖がっているような、憐れんでいるような目で、僕を見ている。 ……ああ……。 その時、僕は忘れてしまっていたモノを理解した。 ばあちゃんが僕の手を、僕の身体をすり抜けて床に倒れる。 ドーンと激しい音が家中に響き渡った。 「どうした?」 「お義母さん?」 父と母があわてて部屋を飛び出してくる。 「転んだのか? 大丈夫か、母さんッ」 「お義母さん? 痛いとかありますか? 救急車呼びましょうか?」 心配そうにする父と母に、 「マサヤがいたんじゃ」 と、ばあちゃんは言った。 それを聞いた父と母は、揃って同じような渋い顔になった。 僕はすっかりと思いだした。 「ばあちゃん。しっかりしろよ。マサヤはもう……」     
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