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忘却
真夜中に目覚めた。
ひどい寝汗をかいている。
ふと、何かを忘れてしまっている気がした。
水が欲しかった。
だから部屋を出て、キッチンへ向かった。
ゆっくりと階段を降りた。
遅い時間だ。家族は寝静まっている。
シンとした闇が、狭い空間に拡がっていた。
闇が生きているような気がして、どこか気味が悪い。
半分冷たくて、半分なまぬるいような空気も肌をゾワゾワさせる。
早く水を飲んで、また眠ろう。
そう思って、僕は急いだ。
そして、
階段を降りきったところだった。
……ギシッと……、
物音にビクッとさせられる。
見れば1階の廊下に人影がある。
誰だ?
僕はゾッとしながら人影を見る。
「誰か、おるんかいの?」
影が言う。
闇に目を慣らせば、なんだ、ばあちゃんだ。
父方のばあちゃん。
じいちゃんを早くに亡くし、田舎で一人暮らしをしていたのだけれど、認知症がひどくなってきたもので、こっちの老人ホームに入れようという流れになった。
けれど、そんなに都合よく老人ホームは見つからない。
順番待ちというやつだ。
そこで、ホームが見つかるまでの間、ウチで世話をすることになったのだ。
それからもう、数ヶ月。
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