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気がついたら、僕は死んでいた。
わかっていて飛び込んだんだから、それは当然の結果だ。
でも、なぜか、僕は河原に引き上げられた体の外にいた。
いつまでも自分の死体を眺めていても仕方がない。
時間があるのなら、自分の部屋に帰ろうと思った。
まだ、僕が僕に失望していなかったあのころに描いた絵を、見たかった。
眩しいリカの姿を、もう一度だけ。
体には入っていないはずなのに、空を飛べたりはしないようで、僕はひたすら歩いて自分の部屋を目指した。
そうして明け方、ようやくたどり着いた部屋で、リカは僕を待っていた。
寝起きのような、腫れぼったい目をして。
僕の姿は、他の人には見えていないと思っていたけれど、リカには見えたらしい。
もともと、見えないものを見て絵を描いているようなリカだから、僕に気づいたのかもしれないけど。
「僕が気づけなかったこと?」
「ユウマを追い詰めるような仕事なんてクソくらえ。ユウマの時間を費やす価値なんて、なかったんだよ。ユウマは、なんでもできるんだから」
憤るリカの姿は、なんだか痛々しい。
「なんでもは、できないよ。買いかぶりすぎ」
「そんなことないよ。ユウマの独特な色使い、わたし好きだよ。絵を描きたくないっていうなら、別に描かなくていい。わたしんとこのチロ(猫)のことすごい可愛がってくれるユウマすごい楽しそうだった。猫が好きなら、ペットショップだって、猫カフェだって、猫ともっと一緒にいられる仕事があったんだよ」
猫カフェの店員。
その考えはなかった。
美大を出て猫カフェの店員か。
それは目から鱗で、でも確かにとても楽しそうな考えだった。
リカは相変わらずだなぁ。
僕が気づかないことも、リカなら気づける。
変なプライドとか、意地とか、遠慮とか、そういうの全部とっぱらって、もっと早くリカに会いに行っていればよかったのかもしれない。
もっとも、再会したリカにそっけない態度をとられたらと思うと怖くて、結局は会えなかっただろうけど。
「そうか、猫カフェかぁ」
「そうだよ。毎日猫に囲まれて働けるんだよ。素敵でしょ」
うん、確かに素敵だ。
「ありがとう、リカ」
僕にも、できることはあったのかもしれない。
僕は、なにもできないゴミじゃなかったのかもしれない。
そう気づけただけで、救われたような気がした。
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