おかえりとさよなら

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すやすやと眠るリカの寝顔を確認してから、僕は歌うのをそっとやめた。 隣にリカがいる、懐かしい感覚。 リカは変わらない。 胸が苦しくて、思わず目を閉じる。 僕は、いったいなにをやってるんだろう。 卒業してから、もう何度も繰り返した問い。 就職した先では、デザイナー枠で採用されたはずだけれど、研修という形で営業に配属された。 もともと他人とコミュニケーションをとるのは苦手だったけど、精一杯やったつもりだった。 でも、怒鳴られない日のない毎日。 それが、一年以上続いた。 いわゆる研修期間が明けても、他の部署への異動はなかったから。 課されたノルマは僕にとって途方もない数字で、靴を何足もダメにしても、一向に達成することはできなかった。 ノルマを達成するまで帰って来るなと指示を受けたものの、既にどこの訪問先も営業時間はとっくに終わり、かといって職場に帰ることもできず、暗くなった訪問先のビルを見上げて、茫然と立ちつくしていた。 どうして自分は、こんなにも上手くできないんだろう。 どうして自分は、こうして夜の街にたったひとり、資料の詰まった重い鞄を抱えて立ち尽くしているんだろう。 どうして自分は、なんの役にも立てないのに、こうして生きているんだろう。 どうして、どうして、どうして―ー。 どうして――。 僕は、こんなにも役立たずだってことに、今まで気づかずにのうのうと生きていたんだろう。 そう。 僕は知ってしまったから。 だからもう、昔の僕とは、違う。 違うんだよ、リカ。
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