2人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうしたの?」
突然訊かれて、僕は驚いて目を開けた。
目の前に、リカの顔がある。
「寝てなかったの?」
「寝てたような気もするけど、歌が聴こえなくなったから目が覚めちゃった」
「ごめん」
もう少し、歌っておくべきだったか。
「ううん。ありがと、歌ってくれて」
「上手くなくてごめん」
「上手さなんて、ユウマに求めてないから」
「それはそれでひどいな」
僕は確かにカラオケも得意じゃなかったけどさ。
大学を卒業して一年半。
あっという間だったようで、すごく長かったような気もする。
「上手くなくったって、好きだからいいんだ」
好き、の言葉にどきりとする。
もう、僕たちはつきあっていないし、恋愛感情の好きじゃないってわかってる。
でも、こうして、リカが会いに来てくれたから。
あまりにも昔と変わらないように接してくれるから。
まだ、僕が僕という存在を見限っていなかったあのころと同じように、笑いかけてくれるから。
芸術家になれるほどの才能はなくても、学んだ技術で生きていけるんじゃないかと、あまりにも楽観的だったあのころの僕に対する態度と、あまりにも変わらないから。
だから僕は錯覚してしまいそうになる。
僕には、まだ可能性があったんじゃないかって。
最初のコメントを投稿しよう!