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「ユウマはがんばったよ」
「……なに? 突然」
「ユウマは、いつもがんばってたよ。ユウマの邪魔しちゃ悪いかなって思って、ユウマから連絡がくるまでわたしからは連絡しないでおこうって、遠慮しちゃった」
えへへ、とリカがリカらしくない台詞を口にする。
「遠慮なんて言葉、リカの辞書にもあったんだ?」
「あるよ! 失礼な!」
「ごめんごめん」
ぷう、とふくれたリカが、寂しそうに眼を伏せる。
「卒業したあとも、いつか落ち着いたら、ミツやカオルとかとつるんでひょっこりアトリエに遊びに来たりしないかなぁ、とかね」
ミツとカオルは僕と一緒に卒業した同期で、深夜飲みに繰り出したり、バカやったりしてた連中だ。
就職してからは仕事の忙しさに追われてなかなか連絡できなくて、そのまま疎遠になってしまったけど。
「僕のほうこそ、リカの邪魔しちゃいけないって思ってたよ。正直に言うと、リカの才能が眩しくて、眩しすぎて、距離を置いてしまったところもあったけど」
僕なんかが、リカの時間を消費しちゃいけないって、思ってしまったから。
「ユウマの絵、わたし好きだよ。卒業後もアトリエに置き去りになってる絵は、期日までに引き取りに来なかったものは処分される決まりだけど……、わたし、ユウマの絵はまだ保管してるんだ」
「え、どれ?」
「全部」
「ええっ!? あんなの、処分してもらおうと思って取りに行かなかったのに」
描くのが楽しくて、ただ楽しくて、描きまくってた駄作たち。
「処分するつもりだったんだから、わたしがもらってもいいよね?」
「いいけど……あんなの持ってたって邪魔になるだけだよ」
「そんなことないよ」
リカがそう言ってくれるのなら、あの絵たちも少しは僕に描かれてよかったと思ってくれるかもしれない。
とっくに処分されてるだろうと思ってたものだけど。
まだ、存在していたんだとわかって、恥ずかしいけどでも嬉しかった。
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