第二章

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「ルーキー。初陣での生還、おめでとう。そして改めてようこそ“底辺の騎士団”へ」 「あ、はい。今日はありがとうございました、これからもよろしくお願いします」  メンバーの中で頭一つ分大きいルーキーは、タイサの冗談をうまく返せないまま慌てて彼の樽ジョッキと自分の樽ジョッキを合わせる。 「そして、ジャック。今までご苦労様、新しい所でも頑張れよ」 「はい。隊長、今まで本当にお世話になりました。向こうでも頑張ります!」  初めてジャックがこの店で酒を頼んだ時に、身長と童顔を理由に未成年だと本気で店員達に怪しまれた頃が懐かしい。タイサはジャックとも樽ジョッキを合わせ、互いに目で語った。 「………そう言えば、隊長は腕の怪我は大丈夫なんですか?」  控えめに食べているルーキーが自分から何とか話題を作ろうと、今更ですがとタイサに声をかけた。  オークの一撃は人間を乾いた土の塊のように簡単に壊す。その一撃を、しかも大きな剣を持った一振りをタイサは籠手1つで受け止めた。普通に考えれば触れた腕が切り落とされ、そのまま頭から顎にかけて剣が突き刺さってもおかしくない威力だったのだが、ルーキー以外誰一人自分の部隊の隊長を心配していなかった。  そんな不思議な雰囲気に言葉を発したルーキーだったが、それを聞いたボーマとエコーが思わず顔を合わせる。 「ほらボーマ。やっぱり聞いただろ?」 「もう賭けにならねぇよ。そろそろやめないか? これ」  ボーマが勘弁してくれと嘆きながら懐から銅貨を1枚取り出すと、細目で笑っているエコーに向かって弾いた。  一体何の流れか。ルーキーには何のことだかさっぱり分かっていない。 「毎回毎回。全く、お前達は飽きないのか?」 「まぁまぁ。そう言わないで見せてやってくださいよ、隊長」  部下の賭け事の材料に毎回使われていたタイサは仕方がない奴らだと諦め、腕をまくる真似をしているボーマの注文通り、右腕の袖をめくってルーキーに見せた。 「傷が………ないですね」  タイサの右腕には切り傷が見当たらなかった。そんな馬鹿なと念入りにルーキーがタイサの右腕に近づいて目を凝らすと、ようやく見えたのは長く赤くなっている筋が1本だけだった。  まさかと思い、ルーキーは先輩たちの表情を伺った。
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