Lost19 ①底辺の隊長と呼ばれた男

第一章

　王都ウィンフォスから西に馬を走らせること約２時間。王都に一番近い街との街道を繋ぐ森の中で旅人や商人が襲われるとの情報が入り出したのは１週間前からだった。
　大陸一を誇る国家といえど、街道に賊が出ることは別段珍しいことではない。『運が悪かった』という程度には誰にでも起こりえる事件である。

　本来街道の賊退治は各街に設置された冒険者ギルドの担当するところだが、どうやら賊の正体が人間ではないとの情報がギルドから王国騎士団へと報告されたことで事態が一変した。
　王国騎士団はこの件を騎士団が解決すべき案件として担当することとなり、王都に駐留する騎士団が急遽現地へと派遣されることとなった。
　国内、それも王都周辺で人ではない者『蛮族』が出たとあっては住民の不安を煽るだけでなく、王国の威信にもかかわる。王都から派遣された騎士団『盾』を名乗る団長のタイサは、馬に乗る3名の部下を連れて最も目撃情報が多かった森の中でその足を止めた。

　位置的には街と街との中間地点。街を繋ぐ道としては最短の行路だが、木々の間隔が狭く、また奥の深みも十分に濃い。それなりの目をもった人間ならば、両側の茂みで待ち伏せを行うには絶好の場所だと分かる。
　近隣の住民はこの道の危険性を分かっている為に、急ぎの便であってもこの道を使うことはない。実際襲われた者のほとんどは、遠くから来た旅人や駆け出しの商人達ばかりであった。