第三章

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 まだバイオレットの実力は見たことがないが、立ち振る舞いからして彼よりもバイオレットの方が腕前は上だろう。初めの戦闘こそ経験の差でルーキーの方が落ち着いて戦えるだろうが、1か月もすれば立場は逆になる。身長差のある2人が握手を交わす姿を見ながら、タイサはそう感じていた。 「あとは変態が一人だ。以上、俺を入れて5人の………」「うぉぉぉぃ! 隊長!」  文句のないタイミングでボーマが泣きながらタイサのマントにしがみついてくる。 「駄目だ駄目だ! お前は危険すぎる!」  犬を追い返すようにタイサはボーマに向かって手を払う。 「そんなことないですよ! 自分にも同じように紹介してくださいよ!」  お願いしますと汗にまみれたむさくるしい顔で懇願される。タイサは嫌な顔を作りながら、仕方がないと息を吐き、2人のやり取りにも無反応で無表情なバイオレットにボーマを紹介する。 「えーと、ボーマだ。この騎士団の中では最古参だが、見ての通り女性受けはすこぶる悪い。慣れるまでは戦闘以外で近づかないように」「隊長ぉぉぉぉぉぉう!」  ボーマの発言を許さず、タイサの一方的な紹介で終わる。何か言うことを考えていたのか、それとも握手できることを期待していたのか、ボーマはその場で膝をついて崩れた。  騎士団の相変わらずな雰囲気にエコーもルーキーも笑っているが、バイオレットはどうしていいか分からず、とりあえず打ちひしがれているボーマの前で小さく一礼すると、薄い表情のままゆっくりと距離を取った。  これで全員の紹介が終わった。タイサはここからだと手を2度叩き、全員の視線を自分に向けさせた。 「さて今日の午後からだが、新人が入ってきたことでまずは恒例の街の巡………」「団長、実はこれを預かっています」  話の骨を見事に折ってきたのは新人のバイオレットだった。彼女は上着の裏から折られた羊皮紙を取り出すと、それをタイサの前で広げた。
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