第三章

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「クライル宰相閣下よりタイサ団長に、とのことです」 「………はい?」  直接宰相からとは思い当たる節がない。タイサは目を大きくしながらバイオレットの羊皮紙を摘まみ上げ、上から流すように読み始める。 「団長じゃない。隊長と呼ぶんだ、バイオレット。ここじゃぁそう言うルールだ」  いつの間にか立ち直ったボーマが鋭い目と渋い声で決める。鼻をすすらずに言えていればそれなりに様になっていただろう。  そんないつものやり取りの中だったが、その空気とは異なりタイサの顔は徐々に険しくなっていた。  そのことにエコーだけが気付く。 「隊長、何かありましたか?」 「いや、そうではないが………念のため宰相府に行って確認を取ってくる。エコー、急で悪いがバイオレットに用意した装備の支給を。ボーマとルーキーは手配した馬に荷物を載せておけ、一応2日、いや3日分の食料と水も一緒に申請して積んでおいてくれ」 「分かりました」副長のエコーがそれ以上は言わずに真っ先に答える。  雰囲気ががらりと変わった。新人相手にふざけていたボーマも、タイサの指示を聞くやすぐに顔を切り替え、顎に手を置きながら姿勢をつくる。ルーキーも多めの食料や水が必要になると聞いて彼なりに疑問を持ったようだ。周囲の空気に合わせようと静かに立っている。 「それにしても随分と荷物が多いですね、隊長。一体何が書いてあったんですかい?」  最古参らしくボーマが副長よりも先に尋ねた。  タイサは羊皮紙を丁寧に巻きとると、その紙で額を軽く抑えながら頭の中を整理する。  そして短く答えた。 「西部方面の巡回警備命令だ」
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